推薦の言葉

木村 公一
国際経済学者(Ph.D.)

 我が国が長寿世界一となって、かなりの時間が経ちました。厚生労働省によると、平成25年の平均寿命が男性で80.21歳、女性で86.61歳となっています ①。
 平均寿命の数値を見る限り、我々は世界一の健康的な環境を獲得していると言えるでしょう。
 しかし、実感となるとどうでしょうか。私たちの周りを見渡すと、健康に関する情報があふれかえっています。テレビや雑誌、もちろんネット上でも、ひとたび健康の情報を探そうものなら、すぐに数えきれない量の情報が、まさに洪水のように押し寄せてきます。このように健康に関する情報が氾濫している状況は、人々が健康について強い関心を示していることの表れでしょう。それは同時に、我々が健康に関して不満や不安を感じていることの表れでもあります。長寿世界一を達成している、いわば世界一の健康環境を獲得しているにもかかわらず、自分たちの健康に対する不満や不安を取り除けていないのがまさに日本現状といえます。
 健康に関する情報は、確かに量は多いのですが、しっかりとした根拠に基づくものから、その効果すら疑わしい内容まで、まさに玉石混交といえる状態です。また、せっかく手に入れた健康に関する情報でも、その数があまりにも多すぎるために、すべてを実行することは不可能なのではないでしょうか。例えば、この食品が体に良いからと言って知りえたすべての食品を摂取することはできない相談です。また、知っている健康法を全部実行しようとしたら、おそらく体を壊してしまって、望むものとは逆の結果をもたらしてしまうかもしれません。身の回りにあふれるたくさんの健康情報に翻弄されているのが我々の姿でしょう。
 このように現代の我々は、長寿世界一という世界最高の健康的な環境を獲得しているにもかかわらず、自分たちの健康に不安や不満を強く感じており、そのための情報を渇望している状況にあります。しかし、周りにあふれる情報は、その量があまりにも膨大であるために、処理しきれないという罠に陥っていると言えます。
 ここで一度立ち止まって、「私たちはなぜ健康を求めるのか?」という命題に向き合ってみましょう。「健康を獲得した結果、あなたはどうなりたいのか?」と言い換えてもいいのかもしれません。もちろん「長寿」も重要な答えの一つでしょう。しかし、単に人生が長いものになるという以上に、いつまでも健やかにすごしたいと願っている人が多いのではないでしょうか。「好きなものをおいしく味わい、家族や友人と楽しい時間を過ごし、趣味を存分に満喫する。」そうした時間をより長く獲得するために「長寿」が必要なのであって、「長寿」そのものが健康を求める目標とはならないはずです。
 ではそれを実現するために健康を求めるといっても、いったいどうすればいいのでしょうか。単に「長寿」を求めているのであればまだ簡単なのかもしれません。しかし、「好きなものをおいしく味わい、家族や友人と楽しい時間をすごし、趣味を存分に満喫する。」が目標となると、途端にどうしていいのかわからなくなります。さらにご自身の体の状態、生活環境や生活習慣等、様々な要素が絡み合って、状況はより複雑なものになっています。これでは、世にあふれる健康情報の中から自分に合ったものを見つけ出すことはとても難しいことでしょう。
 つまり、健やかに過ごすための「健康」を願いながらも我々は、世にあふれる多くの情報に翻弄され、自身が必要とするものを取捨選択することがとても難しいことになっていると言えます。そのような状況の中で目の前にある健康情報を、ただ闇雲に取り込むことは非効率なだけではなく、下手をすれば逆効果ということにもなりかねません。今の時代、専門的な知識がないと「健康」を獲得することが難しくなっていると言えます。
 そうはいっても、個々人が「健康」に関する専門的な知識を幅広く獲得することは、簡単なことではありません。何度も繰り返すように、「健康」に関する情報は多様化、複雑化の一途をたどっており、簡単に個人で太刀打ちできるものではないでしょう。ですから、その道の専門家の助言を得るというのが、採りうる有効な手段と考えられます。
 例えば金融商品の世界でも、多様化する要望に応えるべく商品も多様化を進めた結果、あまりにも複雑になりすぎて専門的な知識なしに購入することが難しくなってきました。そこで購入を希望する人が、自分の状況や希望に合ったものを選ぶために専門家の助言を受けることが、今では一般的になっています。それと同じ仕組みが、「健康」についても必要な時代となっているのではないでしょうか。
 今回藤田誠先生の提唱されている〝心〟〝体〟〝気〟の三つの要素を柱とした「ヘルシー・ライフ・プラン(健康計画)」の基本的概念は、まさに「健康」を必要としている人に必要な情報を提供する仕組みを提案するものといえます。「健康」についての様々な分野を極めたその道の専門家が、個々人の状況を分析し、それぞれに合った「健康」のための情報を総合して「ヘルシー・ライフ・プラン(健康計画)」を提示する。効率的に「健康」になるために指針となるものを正確かつ綿密に組み立てることは、とても合理的だと言えます。しかも、「健康」にかかわる情報をいくつかの分野に細分化し、それぞれの分野を得意とする複数の専門家による共同作業によって、この「ヘルシー・ライフ・プラン(健康計画)」を組み立てる点が、この仕組みの精度を高めていると言えます。前述のとおり、「健康」について複雑化した状況の下では、いくら専門家といえども一人で全てを網羅することはできません。だからこそ、細分化した分野ごとに専門性を持たせて特化することが、むしろ必須といえるのではないでしょうか。
 限りある人生の中では、「健康」のための方策を自分の体で何度も実験のできるものではありません。しかも、「健康」にとって効果的かどうかの結果が出るまでにどんどん時間が過ぎていってしまいます。その限りある時間の中で、効率的に「健康」を獲得するのに自分自身の経験と勘に頼ることは限りなく難しいことだと言えるでしょう。  「健康」に関する専門家集団によって組み立てられる「ヘルシー・ライフ・プラン(健康計画)」は、今の時代に合ったものであると思われます。人生を楽しむために、より良い「健康」が獲得できることを願っています。


① 厚生労働省、「平成25年簡易生命表の概要」、「平成25年簡易生命表について」、http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life13/dl/life13-02.pdf

平成27年10月2日閲覧。